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中国四大料理について
 日本の約26倍もの国土の広がり、料理の歴史3000年以上という時の厚み、そして食べることへの限りない情熱。中国料理は「中国の歴史と風土を映す味、人生を楽しむ味」として今日まで受け継がれています。そして21世紀となった現在、中国料理は地球規模で愛され親しまれています。限りなく広く奥深い中国料理の世界、その多彩な魅力とルーツを中国四大料理の中に探ってみたいと思います。

一口に「中国料理」と言っても、地域によってそれぞれに大きな特色があります。日本でもその土地ごとにさまざまな料理があるのと同じように、中国でも地域ごとに素材・味付け・調理法などにそれぞれの特色があります。それが北京料理、上海料理、四川料理、広東料理と地方によって大きく四つに分けられていて、「中国料理」とはその四大料理を総称しているのです。

◆北京料理 北鹹(ペイシェン) 王朝から王朝へ・・・・様々な民族の味。

 

 北京料理は「京菜(ジンツァイ)」と呼ばれます。「京」とは首都のことで、古くから都として栄えた北京には、漢民族だけでなく、元の時代には蒙古民族、清の時代には満州民族などが国を治め、北京料理の味に民族的な味を映し出してきました。京菜のルーツは、華北地方の、特に山東料理と首都北京で栄えた宮廷料理からきています。
 寒さが厳しく乾燥した北方の気候から、濃厚な味付けが特徴です。みそやしょうゆの味を利かせた塩辛さ「鹹」は北京の漬物の味によく現れています。コクのある大豆みそ「黄醤」や、小麦から作るほのかに甘い「甜麺醤」が代表的な調味料です。また、宮廷料理として、素材の持ち味を生かした繊細な味付けも発達しました。

代表料理: 北京考(=火へんに考)鴨 北京ダック
刷(=さんずいに刷)羊肉 羊肉のシャブシャブ
考(=火へんに考)羊肉 羊肉の焼肉
醤爆鶏丁 鶏肉(サイコロ切り)の味噌炒め
焼餅 小麦粉焼きパン
炸醤麺 ジャージャー麺(肉味噌かけ麺)


◆上海料理 東酸(トンスワン) 水陸の幸にあふれた魚米の郷。

 

 上海料理は「滬菜(フゥツァイ)」と呼ばれます。「滬」とは上海の別名ですが、また、蟹を捕まえるために水中に立てる竹の棚のことでもあるとか。やはり江南の地は、美しい風景と共に味わう魚介類の魅力が印象的です。滬菜のルーツは、江蘇省、浙江省一帯の揚子江下流地域の料理からきています。
 米をはじめとして季節の産物に恵まれ、その温暖な季節にふさわしく、おだやかな味付けが特徴です。鎮江産の酢が魚介類の新鮮な持ち味をまろやかな酸味に仕上げます。また、こってりと煮込む「紅焼」のしょうゆ味も有名で、かくし味として紹興産の酒も使われています。

代表料理: 小籠包 スープ入小型肉まん
上海蟹(蒸蟹) 蒸し上海ガニ
上海蟹(酔蟹) 上海ガニ紹興酒漬け
上海炒麺 しょうゆ味やきそば
叫化童鶏 鶏肉のハスの葉包み蒸し
東坡肉 豚三枚肉の角煮
生煎饅頭 焼饅頭


◆四川料理 西辣(シーラー) 農作物に恵まれた天府の国。(※1)

 

 四川料理は「川菜(チョワンツァイ)」と呼ばれます。揚子江の4つの支流が流れる四川盆地は、気候も湿度も高く、重慶の夏は中国でも指折りの暑さです。米と野菜の生産も盛んで、素材の種類も、味付けのバラエティも豊かです。川菜のルーツは、四川省の非常に特殊な風土を背景にして成立してきたもので、成都や重慶を中心に長江の上流「天府の国」といわれる豊かな四川盆地の料理からきています。
 その辛さの中心は、山椒の辛さ「麻」と、唐辛子の辛さ「辣」の二つです。「麻辣」の辛さに、酢、こしょう、からし、ごま、ネギ、しょうが、にんにく・・・などが組み合わされて多彩で複雑な辛さのバラエティが生まれます。そら豆を原料とした豆板醤は、唐辛子の辛さの中にコクのある旨味を創り出してくれます。

代表料理: 麻婆豆腐 マーボー豆腐
回鍋肉 豚肉とキャベツの甘味噌炒め
干焼蝦仁 エビのチリソース煮
雲白肉 豚ばら肉ときゅうりの辛味ソースかけ
坦々麺 タンタン麺(辛味胡麻めん)
酸辣湯 酸っぱ辛いスープ
宮保鶏丁 鶏肉(サイコロ切り)の唐辛子いため
魚香茄子 (いわゆる)マーボー茄子

(※1) 「天府の国」
「天府」という言葉を角川国語辞典で調べると「地味が肥えて産物が豊かな土地」とありました。また「天府」とは「天国」の意味であると聞いたことがあります。いずれにしても「天が与えた豊かな土地」ということを表している言葉です。四川省は古くから「天府の国」と称されてきました。広大で肥沃な四川盆地。物産が豊富で、すばらしい気候に恵まれています。ところが、調べてみるとこの「豊かな土地」は単に「天が与えた」だけのものではないようです。今からおよそ2200年前(紀元前256年)、成都近くを流れる岷江(揚子江の支流)に都江堰という灌漑水利システムを作り上げた李冰・李二郎という父子がいました。長い年月を経てなお、いまだに有効なこのシステムは、変わることなく豊かな水を四川盆地に供給しています。後世、父子は王として祀られました。その偉業をたたえて、ケ小平は「造福万代」(万世の福を作った)と、江沢民は「創科学治水之先例」(科学的な治水技術の先例を作った)と絶賛したということです。
「天府の国」は実は人為によって維持強化されてきたことを今回初めて知りました。もし都江堰がなかったら今日の「天府の国」はなかったでしょう。いにしえのこの大事業に、ただただ感銘するのみです。


◆広東料理 南淡(ナンタン) 食べることへの情熱。食は広州にあり。(※2)

 

 広東料理は「粤菜(ユエツァイ)」と呼ばれます。その中心は珠江下流の広州料理。そして東江流域の客家料理、韓江下流の潮州料理、さらに福建料理も含まれ、海はもちろん、野や山の幸に恵まれた多彩な味を誇っています。粤菜のルーツは、中国の南部地方、広東省を中心として発達している料理からきています。
 高温多雨の気候からあっさりした味が好まれ、素材の持ち味を生かすまろやかで淡い味付けが特徴です。牡蠣の塩漬けを発酵させた「?油」や、みそ納豆「豆鼓」等の調味料はよく知られています。古くから外国との交易が盛んで、トマトケチャップやウスターソース、牛乳やバター、カレー粉などの洋風な味も取り入れられてきました。

代表料理: 紅焼群翅 フカヒレの煮込み
芙蓉蟹 フヨウハイ(かにたま)
蝦餃 蒸しエビ餃子
清蒸魚 魚の姿煮し
考(=火へんに考)乳猪 子豚の丸焼き
仏跳牆 アワビ、貝柱等の入った高級スープ
叉焼肉 広東チャーシュウ
琵琶鴨 広東ダック
飲茶(ヤムチャ)

(※2) 「食は広州にあり」
「日本人女性と結婚し、ニースに暮らして毎日中国料理を食べる」という「欧米男性のあこがれ」について、なにかで読んだことがあります。きめこまやかな愛情の日本女性に対する憧憬、風光明媚で温暖な南仏コートダジュールに別荘を構えることへの憧憬、そしてお抱えの中国人コックが作る豊富な山海の素材を存分に使った中国料理を毎日食べることへの憧憬・・・まさに夢のような幸せです。
昔から中国にも南方の温暖で豊かな地方に対する“あこがれ”があります。“食は広州にあり”という言葉はあまりにも有名ですが、これは次のような「ことわざ」からきているのだそうです。“生在蘇州(生は蘇州にあり) 穿在杭州(きものは杭州にあり) 食在広州(食は広州にあり) 死在柳州(死は柳州にあり)”すなわち、風光が明媚な蘇州で生まれ育ち、杭州産の絹のきものを身につけ、広州のおいしい料理を味わい、そして柳州銘木の棺桶に入って・・・。この「ことわざ」、元々は“食は揚州にあり”だったといわれています。揚州は江蘇省の古都で江南の交通の要所として栄えた町ですから、人が集まるところに素材が集まり、食の質もどんどん高まっていったようです。私は揚州に行ったことはありませんが、「揚州肴肉」(豚スネ肉のゼリー寄せ)など名物料理が数多くあると聞いています。一方、広東省広州では19世紀の中頃から商工業が栄えはじめました。だんだん飲食店もふえて味を競い合うようになっていき、その頃からいつの間にか揚州が広州に変わってしまったということのようです。“食は広州にあり”(食在広州)。そしてさらに時代は移り、今では広東料理の極みは香港で味わうことができます。“食は香港にあり”(食在香港)がもっとも今流といえるのかもしれません。


大きな国の多彩な素材は、それぞれに地方色豊かな味に磨かれてきました。北京、上海、四川、広東と味わいの地図を広げていくと、改めて「中国料理の」深さと大きさを感じます。北は塩辛く(北鹹)、東は酸っぱく(東酸)、西はピリッと辛く(西辣)、南はうす味(南淡)・・・調味料を複雑に合わせる味つくりの技には3000年にわたる「食」の叡智と歳月のドラマが秘められていると今あらためて感じています。

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